原因はお酒だけじゃない脂肪肝
肝臓には、使いきれなかった脂肪分を、中性脂肪・グリコーゲンとして蓄える機能があります。この蓄積が過剰になり、肝細胞の30%以上に溜まっている状態が「脂肪肝」です。脂肪肝になっただけではほとんど自覚症状はなく、健康診断などで初めて指摘されることが多くなります。
以前まで、脂肪肝はアルコール性のもの、非アルコール性のものに分類されていました。しかし2023年、肝硬変や肝がんへと進行するリスクがあり、脳梗塞・心筋梗塞の原因として注目されていることなどから、代謝異常に関連する脂肪肝をアルコール性・非アルコール性と分類せず、またウイルス性肝炎等の病歴に関係なく、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と定義することが世界的な学会において発表されました。
脂肪肝の原因
脂肪肝(脂肪性肝疾患)の原因には、以下のようなものがあります。
飲酒
1日あたりの純エタノール量において、男性で 30g 以上、女性で 20g 以上のお酒を毎日飲むことで、アルコール性肝障害のリスクが高くなると言われています。
30gの純エタノールというと、ビールであれば750mL(大瓶1本強)、日本酒であれば1合半、ワインであればグラス 2 杯半、ウイスキーであればダブル1杯半に相当します。
生活習慣病
肥満、糖尿病・高血圧症・脂質異常症といった生活習慣病も、脂肪性肝疾患の原因になります。特に肥満の方はインスリンの効きが悪くなるため、肝臓で過剰に中性脂肪が作られます。
遺伝的素因など
脂肪性肝疾患になりやすい遺伝的素因に、PNPLA3等の遺伝子の型が影響しているとの報告があります。
また、腸内細菌叢のバランスの乱れ、サルコペニア(筋肉量の低下)の影響についても指摘があります。
脂肪肝の種類:脂肪肝が進行すると…
脂肪肝が進行すると、肝硬変や肝がんなどの発症リスクが高まります。
アルコール性脂肪肝
アルコールを原因とする脂肪肝は、放置しているとアルコール性脂肪性肝炎へと進行します。
炎症による肝細胞の破壊が進むことで、肝硬変、肝がんのリスクが高まります。
非アルコール性脂肪肝(NASH)
アルコール以外の原因によって起こる脂肪肝は、放置していると非アルコール性脂肪性肝炎へと進行します。
こちらも、炎症によって肝細胞が破壊され、肝硬変や肝がんを引き起こすことがあります。
脂肪肝の症状
肝臓は、沈黙の臓器と呼ばれるとおり、自覚症状が現れにくい臓器です。
そのため、健康診断などで脂肪肝を指摘された方は、たとえ無症状であっても、きちんと治療を受けるようにしてください。放置していると、肝臓にはさらに脂肪が蓄積し、肝炎や肝硬変、肝がんなどの病気を発症するリスクが高まります。
脂肪肝の検査
主に、以下のような検査を行います。
血液検査
血液検査では、AST、ALP、γ-GTPなどの肝酵素、アルブミン、肝臓の線維化の程度を表わす血小板数、肝臓の線維化マーカーなどの数値を調べます。
また、生活習慣病に関連し、血糖値、HbA1c、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールについても同様に調べます。
これらの結果をもとに、「FIB4-index」「NAFLD fibrosis score」といったスコアリングシステムを用い、線維化の進行度やリスクを判定します。
腹部超音波検査
身体の外から超音波を当て、肝臓の状態、線維化の進行度、肝がんの有無などについて調べます。
最新の超音波診断装置では、肝臓の方さ、肝臓内の脂肪の量を測定するフィブロスキャンという検査も可能です。
脂肪肝を早く治す方法は?治療方法について
脂肪肝の段階で適切な治療を開始できれば、肝臓を健康な状態へと戻すことが可能です。
早く治すためには、とにかく早期に、信頼できる医療機関で治療を開始することが大切になります。
食事療法
糖質、脂質を控えめにし、総摂取カロリーもコントロールする必要があります。
主食1品、主菜品、副菜2品を基本とした食事を、毎日できるだけ決まった時間帯に3食摂るようにしましょう。
「禁酒」または「節酒」する
アルコールを原因とする場合には、禁酒または節酒が必須となります。
禁酒が難しい場合も、どれくらいの量をどれくらいの頻度で飲むのか、医師とよく相談した上で決めましょう。
運動療法
ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動と、レジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせます。
肥満を合併している脂肪肝の方が、30~60分の有酸素運動を週に3~4回、4~12週にわたって継続すると、肝臓の脂肪化の改善が期待できると言われています。
減量
肥満は、脂肪肝の重大なリスク因子となります。
食事療法と運動療法を組み合わせて、無理なく、少しずつダイエットをしていきましょう。
薬物療法
脂肪肝そのものに対して、保険適用となる薬は現在のところありません。そのため、以下のように、各生活習慣病に対して使用するお薬を選択することになります。
糖尿病治療に使用されるピオグリタゾン、SGLT2阻害薬、GLP1作動薬、高血圧症の治療に使用するACE阻害薬、ARBなどは、肝機能の改善に有効であることが分かっています。
また脂質異常症に使用するスタチン製剤、フィブラート製剤などは、脂肪肝を改善する効果が期待できます。