- ピロリ菌は胃がん・胃潰瘍のリスクにも関わる細菌です
- ピロリ菌は他人にうつる?感染経路
- ピロリ菌の症状
- ピロリ菌を除菌しないとどうなる?
- ピロリ菌検査
- ピロリ菌の除菌治療の流れ
- ピロリ菌除菌治療の副作用・注意点
- ピロリ菌検査・除菌の費用
- よくある質問
ピロリ菌は胃がん・胃潰瘍のリスクにも関わる細菌です
ピロリ菌とは、ヒトの胃に棲みつく1-4μm程度の細菌です。ウレアーゼという酵素を分泌し、アルカリ性のアンモニアを作り出すことで、胃酸を中和し胃の中でも生存します。
ピロリ菌感染は胃がん、胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎などの原因となるため、感染が疑われる方はピロリ菌検査を受け、陽性であった場合には除菌治療を行うことをおすすめします。
ピロリ菌は他人にうつる?感染経路
ピロリ菌が感染するのは胃酸の分泌が弱い5歳以下の幼児とされ、現在は主に親から食べ物の口移しが原因と考えられています。
ピロリ菌は土・水の中にも生息し、上下水道の整備が不十分だった時代に幼児期を過ごした方、幼児期に井戸水を生活用水・飲料水として使用していた方は、感染率高くなっています。そのため、現在の感染率は10~20代で10%前後、50代で約40%、60~70代で約60%と、世代間で開きがあります。
ピロリ菌の症状
ピロリ菌に感染し、急性胃炎、慢性胃炎・萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどを発症した場合には、その各疾患に応じた、以下のような症状が見られます。ただ、慢性胃炎・萎縮性胃炎、胃がんなどはそもそも自覚症状に乏しく、また必ず何らかの病気を発症しているわけでもないため、「無症状=感染してない」とは言えません。
- 胃痛
- 胃もたれ
- ゲップが増えた
- 吐き気
- 食欲不振
- 吐血
- 黒色便
- 貧血
- 体重減少
など
ピロリ菌を除菌しないとどうなる?
ピロリ菌に感染したまま放置していると、急性胃炎、慢性胃炎・萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなど、さまざまな疾患の発症リスクが高まります。
ピロリ菌に感染している人は、そうでない人と比べて胃がんのリスクが約5倍になるとも言われています。除菌治療をしたから上記の病気に100%ならないというわけではありませんが、リスクを大きく減らせるという意味では、ピロリ菌検査・除菌治療は非常に有効になります。
またピロリ菌はその他、胃過形成ポリープ、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、慢性蕁麻疹、一部の血液疾患・皮膚疾患との関連性も指摘されています。
ピロリ菌検査
胃カメラ検査、胃バリウム検査によって、ピロリ菌の感染に伴う「ピロリ感染胃炎」の診断をし、その感染が疑われる場合に、ピロリ菌検査に保険が適用されます。
胃カメラを使ったピロリ菌検査と、胃カメラを使わないピロリ菌検査があります。
胃カメラを使わない方法
抗体検査(血液検査)
採血し、ピロリ菌の感染によってできる抗体の有無を調べます。
尿素呼気試験
検査薬を飲む前と後で呼気を採取し、そこに含まれる二酸化炭素の量を調べます。お身体への負担が少なく、除菌治療後の成功・失敗を判定する検査に有用です。
便中抗原検査
便を採取し、抗原の有無を調べます。
胃カメラを使う方法
迅速ウレアーゼ試験
胃の組織を採取し、ピロリ菌が作り出すアンモニアによる反応を試薬で調べ、判定します。簡便で、すぐに結果が出る検査です。
培養検査
胃の組織を採取・培養し、ピロリ菌が増えるかどうかを調べます。除菌治療の効果予測が可能です。ただし、判定に時間がかかります。
顕微鏡検査
胃の組織を採取・染色し、顕微鏡でピロリ菌の有無を確認します。判定に時間がかかる検査です。
ピロリ菌の除菌治療の流れ
1医師の診察・診断
医師が診察・検査などを行い、下記のいずれかに該当する場合には、保険診療としてピロリ菌治療が受けられます。
- 胃カメラ検査を行い、ピロリ菌感染胃炎と診断された
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 早期胃がん
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
21次除菌治療
2種類の「抗菌薬」、1種類の「胃酸の分泌を抑える薬」を1日2回(朝晩)、連続7日間服用します。
1次除菌によって、約80%が成功します。
※1日でも服用を忘れてしまうと、期待する効果が得られません。
3判定検査
1次除菌後、4週間以上が経過してから、再度ピロリ菌検査を行い、成功・失敗の判定をします。
42次除菌治療
1次除菌の判定検査で陽性だった場合には、2次除菌を行います。2次除菌までに、95~98%が成功します。
抗菌薬のうち1種類を変更し、再度1日2回(朝晩)、連続7日間服用します。
その後、4週間以上をあけて判定検査を行い、陽性であった場合には、3次除菌、4次除菌が可能です。ただし、3次除菌以降は、保険が適用されず自費診療となります。
ピロリ菌除菌治療の副作用・注意点
副作用
多くの場合、特に副作用なく除菌治療が終えられます。
ただし、軟便・下痢が10~20%の割合で見られます。その他の副作用としては、味覚障害、肝機能障害などが報告されています。
注意が必要なのは、発熱を伴う下痢、発疹・蕁麻疹などが見られる場合です。ごく稀なケースですが、この場合は速やかに薬の服用を中止し、受診してください。
注意点
- 除菌治療の効果を十分に得るため、処方されたお薬は医師の指示通りにお飲みください。ただし、発熱を伴う下痢、発疹・蕁麻疹が現れた場合には、服用を中止し、すぐに受診してください。
- 正しい服用ができなかった場合、除菌に失敗するだけでなく、治療薬に対する耐性を持った菌へと変性し、以降の治療が困難になるおそれがあります。
- 喫煙は、除菌治療の成功率を低下させます。少なくとも除菌治療中は禁煙をしてください。
- 二次除菌では、アルコールとの相性の悪い除菌薬を使用するため、この期間は禁酒が必要です。お酒を飲んでしまうと、腹痛、吐き気、頭痛などが起こることがあります。
ピロリ菌検査・除菌の費用
保険診療(下記料金は一般的な目安です)
胃内視鏡検査時に行うピロリ菌検査
※別途、胃カメラの費用が3割負担で約5000円、1割負担で約2000円かかります。
検査方法 | 3割負担 | 1割負担 |
---|---|---|
迅速ウレアーゼ試験 | 約1,500円 | 約500円 |
顕微鏡検査 | 約4,000円 | 約1,300円 |
培養検査 | 約1,800円 | 約600円 |
胃内視鏡を使用しないピロリ菌検査
検査方法 | 3割負担 | 1割負担 |
---|---|---|
尿素呼気試験 | 約1,500円 | 約500円 |
抗体検査 | 約700円 | 約250円 |
便中抗原検査 | 約900円 | 約300円 |
ピロリ菌除菌治療
※ピロリ菌のみの検査では保険適用となりません。保険適用の除菌治療には、胃内視鏡検査が必要です。
治療内容 | 3割負担 | 1割負担 |
---|---|---|
1次除菌(胃薬1種類、抗菌薬2種類)1日2回7日間 | 約1,500円 | 約500円 |
1次除菌(胃薬1種類、抗菌薬2種類)1日2回7日間 | 約1,400円 | 約500円 |
3次除菌以降 | 自費治療となりますのでご相談ください。 | 自費治療となりますのでご相談ください。 |
よくある質問
ピロリ菌は除菌しても再感染することはありますか?
基本的に一度除菌に成功すれば再感染はほとんどありません。ただし、幼児期のように胃の環境が未成熟な時期を除き、大人では再感染の可能性はごくわずかです。家庭内での衛生管理も予防につながります。
ピロリ菌の除菌に失敗する理由は?
抗生物質が効かない菌(耐性菌)だったり、服薬のタイミングを守れなかった場合に除菌に失敗することがあります。1回目で除菌に失敗しても、2回目の再除菌で多くの方が成功しています。
ピロリ菌除菌後も胃がんになることはありますか?
はい、あります。除菌後はリスクが下がりますが、萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん状態がすでにある場合、胃がんの発生リスクは完全にはゼロになりません。除菌後も定期的な内視鏡検査が重要です。
除菌に成功したかどうかはどうやって確認しますか?
主に呼気検査(尿素呼気試験)で確認します。除菌終了後、1か月以上空けてから行う必要があります。血液検査や便中抗原検査を用いることもあります。
ピロリ菌がいなくても胃がんになることはありますか?
はい。ピロリ菌がいなくても、逆流性食道炎や慢性的な胃炎、飲酒・喫煙・家族歴などの要因で胃がんになる可能性はあります。ただし、ピロリ菌感染がある人の方が胃がんのリスクは高いことが分かっています。
ピロリ菌がいると逆流性食道炎になりにくいって本当?
一部の研究では、ピロリ菌が胃酸分泌を抑える傾向があるため、逆流性食道炎になりにくいとされることがあります。ただし、除菌後に一時的に胃酸分泌が活発になり、症状が出る方もいます。
胃カメラなしでピロリ菌検査だけ受けられますか?
条件によっては可能ですが、保険診療でピロリ菌検査を行うには、胃炎の診断(内視鏡)が必要とされています。自費であれば胃カメラなしで検査可能な場合もありますので、ご相談ください。
子どもでもピロリ菌の検査・除菌は必要ですか?
現時点では、明確な症状がある場合のみ検査・治療対象とされることが多いです。無症状のお子さんの場合は慎重に判断する必要があります。
ピロリ菌が陰性でも胃の不調があります。関係ありますか?
ピロリ菌がいない場合でも、機能性ディスペプシアや逆流性食道炎、ストレス、食生活の乱れなどが原因で胃の不調が出ることはあります。内視鏡や血液検査などで他の原因を確認することが大切です。
市販薬でピロリ菌を除菌することはできますか?
できません。ピロリ菌の除菌には、特定の抗生物質と胃酸抑制薬の組み合わせが必要で、医師の診断と処方が必要です。市販薬やサプリメントでは除菌できません。
除菌中にお酒は飲んでもいいですか?
基本的には控えることをおすすめします。アルコールは胃の粘膜を刺激し、除菌薬の副作用を強める可能性があります。治療期間中(7日間程度)は禁酒をおすすめします。
ピロリ菌除菌の副作用にはどんなものがありますか?
下痢、軟便、腹部不快感、味覚異常などが一時的に出ることがあります。強い副作用がある場合は医師に相談してください。大半の方は軽度で、予定通り治療を終えられます。
除菌後に胃酸が増えて胃痛が出ることはありますか?
はい、除菌によって胃酸分泌が元に戻るため、一時的に胃酸過多のような症状(胃痛、胸やけなど)が出ることがあります。必要に応じて胃薬を併用しながら様子を見ます。
除菌治療後、どのくらいで体調は改善しますか?
個人差はありますが、多くの方は数週間~1か月ほどで胃の不快感や症状の軽減を実感します。ただし、粘膜の修復には時間がかかるため、治療後も継続的なケアが必要です。
はい。胃カメラで異常がなくても、ピロリ菌がいるだけで将来的なリスクが上がるため、ピロリ菌の有無は一度確認することをおすすめします。将来の胃がん予防の第一歩となります。